壊れかけのローター

部屋の隅で転がるローターが、かすかに震えていた。微弱な振動が途切れ、再び動き出す。その様子を、真奈美はぼんやりと眺めていた。

「なんか……私みたい。」

呟く声が静かな部屋に溶けていく。

帰宅しても、特に何かが待っているわけではない。テレビの音もつけず、暗がりの中でただローターの動きを見つめている自分が、なんだか滑稽に思えた。

「寂しいなら、誰かを呼べばいいのに。」

声に出してみるものの、そんな気力もなかった。スマホを手に取るが、スクロールする指は止まらない。メッセージアプリを開くこともせず、ただ無意味に画面を眺める。

不意にノックの音がした。

「……まなみ?」

低く落ち着いた声。思わず息を呑む。

扉を開けると、そこには信哉が立っていた。久しぶりに会うその姿は、どこか昔より落ち着いて見えた。

「連絡くらいしろよ。心配するだろ?」

「……別に、大丈夫だから。」

「そういう顔じゃない。」

信哉は部屋の中に入るなり、散らかったままの部屋を一瞥し、テーブルの上のローターに目を留めた。

「また、これに頼ってたのか?」

まなみは返事をしなかった。ただ静かに視線を落とす。

信哉は小さく息をつき、そっとまなみの手を取った。その温もりが、久しぶりすぎて少し驚く。

「もう少し、人を頼れよ。」

その言葉が、胸にじんわりと染み込んでいく。まなみは小さく頷いた。

壊れかけていたのは、ローターじゃなくて、自分自身だったのかもしれない。

ゆっくりと、部屋の中にぬくもりが戻っていった。

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