1. それぞれの日々
偶然の再会から数ヶ月が過ぎ、冬は春へと移り変わった。信哉と真奈美はあの日以来、連絡を取ることはなかった。再び繋がるかもしれないという予感は、二人の間に何も生み出すことなく、静かに消え去った。
信哉は相変わらず仕事に追われる日々を送り、真奈美への感情は過去の一部として折りたたまれていった。再会したときの彼女の笑顔を思い出すことはあっても、それは特別な意味を持つものではなくなっていた。
一方の真奈美も、新しい環境での仕事に打ち込みながら日々を過ごしていた。あの日、信哉と歩いた時間は確かに温かいものだったが、それ以上の何かを求めることはなかった。互いに前を向いて歩むことが、最善の道だと分かっていたのだ。
2. 冬の訪れ
季節が巡り、再び冬が訪れた。街にはクリスマスの飾りが灯り、冷たい風が頬をかすめる中、信哉は久しぶりにあの時計台の前を通りかかった。真奈美との思い出が頭をよぎるが、胸の内は静かだった。
そのとき、ふと目に留まったのは、スカイブルーのマフラーを巻いた若い女性だった。だが、すぐに彼女が真奈美ではないことに気付き、信哉は小さく笑った。
「……未練なんてもうないんだよな。」
そう呟いて歩き出そうとしたその瞬間、信哉のスマートフォンが震えた。画面には見覚えのない番号が表示されている。迷いながらも通話ボタンを押すと、聞き慣れた声が耳に届いた。
「信哉……久しぶり。」
3. 再び向き合う
電話の主は真奈美だった。彼女は震える声で、静かに言葉を紡いだ。
「突然ごめんね。どうしても伝えたいことがあって……少しだけ時間をもらえないかな?」
信哉は少し考えた後、短く答えた。
「分かった。いつもの場所でいい?」
こうして二人は、再び時計台の前で会うことになった。雪が舞い始めた夜、信哉が到着すると、すでに真奈美が立っていた。彼女の首には、かつて信哉が贈ったスカイブルーのマフラーが巻かれていた。
「待たせた?」
「ううん。私が早く来ただけ。」
二人の間には、少しぎこちない空気が流れた。それでも、真奈美は意を決したように信哉を見つめ、口を開いた。
4. 真奈美の告白
「信哉、あの日、私がこのマフラーを捨てられなかった理由を話したいの。」
真奈美の言葉に、信哉は黙って耳を傾けた。彼女は続けた。
「私、あの時……あなたのことを手放したくなかった。でも、自分の気持ちを信じることができなくて、結局あなたを傷つけるばかりだった。」
彼女の声は震えていた。雪が降り積もる中で、真奈美の言葉は静かに響いた。
「でも、再会して気づいたの。もう一度だけ、あなたに向き合いたいって。」
信哉はしばらく何も言わなかった。ただ、彼女の言葉を受け止めるように雪を見つめていた。そして、静かに口を開いた。
「俺も、同じことを考えてた。でも……もう少しだけ時間が欲しい。今の俺が、君を幸せにできるかどうか、まだ自信がないから。」
5. 冬の終わりに
二人はそれ以上多くを語ることはなかった。ただ、再び会話が途切れることなく歩き出した。スカイブルーのマフラーが、二人の間を静かに繋ぎ止めているようだった。
その日は、何も決まらなかった。ただ、二人の心にあるわだかまりが少しずつ溶けていくのを感じていた。
「また……会えるかな。」
真奈美が小さく呟いた言葉に、信哉は頷きながら答えた。
「きっと。」
雪が降り続く街の中、二人の影は再び重なり合いながら、静かに遠ざかっていった。
コメントを残す